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貧乏ゆすりは文字通り「貧乏くさい」「落ち着きがない」など、とかく悪いイメージが定着していて、職場や公共施設などでやってしまうと周りの人から冷ややかな目で見られることがあります。
しかし近年、意外にもこの貧乏ゆすりには健康改善や死亡リスクの低下に繋がる効果があると分かってきました。整形外科や医療の分野では「ジグリング(jiggling)」と呼ばれ、長時間座りっぱなしのデスクワーカーや、エコノミークラス症候群の予防、さらには変形性股関節症の治療にも活用されています。この記事では、貧乏ゆすり(ジグリング)の医学的な効果と、職場でも目立たずできる正しいやり方、そして注意したい症状までを、研究データをもとに解説します。
しかし、近年、意外にもこの『貧乏ゆすり』には健康改善や死亡リスクの低下に繋がる効果があるといわれるようになり、少しずつ見直されるようになってきました。
貧乏ゆすりは、第三者に見た目の悪さや落ち着きのなさを印象づけてしまうことがあります。しかし近年、貧乏ゆすりには思わぬ効用があることを、イギリス・ロンドン大学などの研究チームが発見しました。
2015年にアメリカの医学誌「American Journal of Preventive Medicine」(9月号)に掲載された研究では、イギリス在住の37〜78歳の女性約1万2千人を対象に、座っている時間・貧乏ゆすりの頻度・死亡リスクの関係が調べられました。その結果、長く座る生活は死亡リスクを高める一方で、貧乏ゆすりの頻度が高い人では、座りすぎに伴う死亡リスクの上昇がみられなかったと報告されています。つまり、長時間座る生活でも、貧乏ゆすりがあれば座りすぎのリスクをある程度カバーできる可能性があるということです。
研究チームは「貧乏ゆすりは座りっぱなしに関連する死亡を減らす可能性がある」とし、そのメカニズムも含めてさらに詳しい検討が必要だと結論づけています。なお、この研究の対象は女性のみですが、ふくらはぎの筋ポンプ作用は男女に共通する仕組みのため、男性にも同様の効果が期待できると考えられています。研究結果を受けて、整形外科や医療の現場では貧乏ゆすりを「ジグリング」と呼び、変形性股関節症などの治療にも取り入れるようになっています。
ちなみに、貧乏ゆすりのような「運動とは呼べないこまめな身体活動」はNEAT(非運動性熱産生)と呼ばれ、エネルギー消費の面でも侮れません。ある研究では、じっと座っている状態に比べ、座位での貧乏ゆすりでエネルギー消費が大きく増えることが示されています。それでは、なぜ貧乏ゆすりが健康改善・死亡リスクの低下に繋がるのでしょうか?
長時間乗り物に乗っていたり、椅子に座りっぱなしになると、ふくらはぎが浮腫む(むくむ)という症状が現れます。これは、足に下りた血液が心臓に戻りにくくなって溜まっているサインです。
心臓から大動脈へと送り出された血液の大部分は下半身へと流れ、全身にくまなく酸素や栄養素を供給します。その後、二酸化炭素や老廃物を含んだ血液は静脈やリンパ管を経て、再び心臓へと戻ります。これを血液循環といいます。
ここで重要なのが、心臓のポンプ作用だけでは抹消部(足元)の血液を心臓に戻すことはできないという点です。重力に逆らって血液を上に戻すには、別の力が必要なのです。その手助けをしているのが、ふくらはぎを形成している下腿三頭筋と呼ばれる筋肉です。下腿部の筋肉が乳しぼりの要領で収縮と弛緩を繰り返すことで、足に溜まった血液を心臓へと戻してくれるのです。これを俗に『ミルキングアクション』と言います。
例え話で言うと、ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれるほど血流に重要な役割を果たしています。歯磨き粉のチューブを下からぎゅっと押し上げると中身が出てくるのと同じイメージで、ふくらはぎの筋肉が収縮・弛緩することで血液を上に押し戻しているのです。長時間座っているとこの筋ポンプ作用が止まってしまうので、貧乏ゆすりでふくらはぎを動かすことが、血流維持に役立つというわけです。
足元に血液が溜まると「むくみ」や疲労感だけでなく、さまざまな病気のリスクが高まります。ジグリングは次のような病気の予防に役立つとされています。それぞれ、どんな症状に注意すべきかも合わせて見ていきましょう。
① エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)
血液の流れが淀むと、血栓(けっせん)と呼ばれる血の塊ができやすくなります。ふくらはぎの痛みや腫れ・赤みといった症状が出ることがあり、血栓が肺の動脈を塞ぐと、息苦しさや胸の痛みを伴い突然死を引き起こすこともあります。これがいわゆるエコノミークラス症候群です。長時間のフライトや車中泊だけでなく、災害時の避難生活でも起こり得ます。
② 下肢静脈瘤
足元に血液が溜まり続けると、静脈の弁が壊れて血液が逆流し、皮膚の下の静脈が膨らんで見える「下肢静脈瘤」になります。足のだるさ・かゆみ・夜間のこむら返りといった症状を伴うことが多く、悪化すると皮膚炎や、まれに皮膚壊死を起こすこともあります。
③ 変形性股関節症
意外に思われるかもしれませんが、ジグリングは変形性股関節症の保存療法としても応用されています。股関節の軟骨がすり減り、痛みや動かしにくさといった症状が出る病気ですが、ジグリングで関節を小刻みに動かし続けると、関節液の循環が促されて関節軟骨に栄養が行き届きやすくなると考えられています。自力で十分に動かせない場合は、専用の補助器具が医療機関で用いられることもあります。
このほか、デスクワークによる足のむくみ・冷え・肩こりの改善や、リラックス効果なども期待できます。実際に、貧乏ゆすりでふくらはぎの皮膚温度が数分で上昇したという調査もあり、冷え対策としても注目されています。
ここまでの話で、長時間のフライトを余儀なくされる方、長時間椅子に座ってデスクワークをする方にとって、貧乏ゆすりがいかに有効なのかご理解いただけたのではないでしょうか。整形外科の分野では既に「ジグリング」と呼ばれ、貧乏ゆすりのマイナスイメージを払拭しようとしています。ジグリングは大変有意義な方法なので、日々の生活の中でも上手に取り入れていくと良いでしょう。具体的な手順は次のとおりです。
① 椅子に姿勢よく座る
背筋を伸ばして椅子に深く座ります。猫背にならないように注意。
② 膝関節・足関節を直角にする
膝と足首が90度になるように、椅子の高さや足の位置を調整します。足の裏全体が床に着く状態が理想です。
③ つま先は床につけたまま、踵だけを上下させる
つま先を床から離さず、踵(かかと)だけを小刻みに上下させます。1秒間に2〜3回程度のリズムで行います。
④ ふくらはぎの筋肉が動いていることを意識する
ふくらはぎが収縮・弛緩しているのを感じ取りましょう。これがミルキングアクションです。
⑤ 1回1〜3分、1日数回行う
長時間連続でやる必要はありません。デスクワークの合間、1〜2時間に1回、こまめに行うのがおすすめです。
このやり方であれば、職場や公共の場所でもあまり目立たずに実施できます。簡単にできる方法なので、ぜひお試しください。
ジグリングをより効果的に行うためのコツと、注意したい点をまとめます。
コツ
・水分補給と組み合わせる(血流改善効果がさらに高まる)
・着圧ソックスと併用するとむくみ予防効果が増す
・トイレ休憩や階段の上り下りもあわせて取り入れる
注意点
・既に深部静脈血栓症がある方は、自己判断でジグリングをせず医師に相談してください(血栓が剥がれて肺塞栓を起こす危険があります)
・膝や股関節に強い痛みがある場合は無理しない
・周囲への配慮も忘れずに(机が振動しやすい環境では控える)
貧乏ゆすりが健康に良いと聞いて安心される方が多いと思いますが、自分の意思で止められない貧乏ゆすりは別の病気のサインかもしれません。「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」は、次のような症状がある神経系の病気です。
・脚の奥に「むずむずする」「虫が這うような」不快な感覚がある
・じっとしていると症状が出る、または強くなる
・脚を動かすと症状が軽くなる
・夕方から夜間にかけて症状が悪化する
・睡眠を妨げるほどつらい
これらに当てはまる場合、単なる癖ではなく治療が必要な疾患の可能性があります。鉄欠乏や腎機能の低下、妊娠などが関係することもあり、薬で改善するケースも多いです。気になる症状がある方は神経内科や睡眠外来に相談してください。
Q1. ジグリングはどれくらいの頻度で行えばいいですか?
長時間連続でやる必要はありません。1〜2時間に1回、1〜3分程度を目安に、こまめに行うのが効果的です。デスクワーク中の隙間時間に習慣にしましょう。
Q2. 寝ながらでも効果はありますか?
横になっている状態ではミルキングアクションの効果は薄れます。座位や立位で行うのが基本です。ベッドの上で行うなら、足を少し上げて踵を動かすイメージで。
Q3. 男性にも効果はありますか?
2015年のロンドン大学の研究は女性が対象でしたが、ふくらはぎの筋ポンプ作用は男女に共通する仕組みです。男性にも血流改善の効果が期待できると考えられています。
Q4. 子どもの貧乏ゆすりは止めさせるべき?
健康面では問題ありませんが、教育やマナー面での判断が必要かもしれません。無意識に常に動かしている場合はむずむず脚症候群の可能性もあるので、医療機関に相談する目安にしてください。
Q5. 貧乏ゆすりだけで運動不足は解消できますか?
残念ながら、ジグリングだけでは運動不足は解消できません。ウォーキングやストレッチと併用することで効果が最大化されます。あくまで「座りすぎのリスクを軽減する補助手段」と考えましょう。
「行儀が悪い」と言われてきた貧乏ゆすりは、医学的には「ジグリング」と呼ばれ、健康に多くのメリットがあることがわかっています。
・ふくらはぎのミルキングアクションで血流を促進
・ロンドン大学の研究で、頻繁な貧乏ゆすりが座りすぎの死亡リスク上昇を打ち消す可能性が報告
・エコノミークラス症候群・下肢静脈瘤・変形性股関節症の予防・改善に効果
・正しいやり方はつま先を床につけたまま踵を上下(1〜2時間に1回、1〜3分が目安)
・自分の意思で止められない場合はむずむず脚症候群の症状の可能性も
デスクワーク中心の方ほど、ジグリングを習慣にする価値があります。ただし運動不足の解消には別途ウォーキングなどを組み合わせるのがおすすめ。今日から座っているときに、ぜひ踵を上下に動かす習慣を始めてみてください。