年間を通して、まったく同じウエイトトレーニング・プログラムを続けている人の多くは、「プラトー」と呼ばれる伸び悩みの状態に陥りがちです。これを避けるには、一年を通じて計画的にトレーニング内容に変化をつける必要があります。これがいわゆるピリオダイゼーション理論(ペリオダイゼーション理論)です。
ピリオダイゼーション理論とは、一年を通じて運動強度に強弱のリズムをつけながらウエイトトレーニングを行う方法のことです。
このピリオダイゼーションを真に理解するには、まず『生理的限界』と『心理的限界』という2つの言葉の意味を理解する必要があります。
「生理的限界」「心理的限界」という言葉を聞いたことがある方は、それほど多くないかもしれません。しかし、インストラクターやトレーナーで、この言葉を知らない人はまずいないでしょう。それほど重要な意味を持つ概念です。
生理的限界とは、人間が本来もっている潜在的な能力(ここでは筋力)の限界値のことです。ところが、私たちは普段、この能力をすべて使えているわけではありません。本人は最大筋力を発揮しているつもりでも、神経系の防衛機構(出しすぎてケガをしないよう、脳がブレーキをかける働き)によって抑えられ、その一部しか使えていないのです。
定期的にトレーニングしている人でさえ、普段は生理的限界の70%程度の筋力しか発揮できていない、ともいわれます。この、普段発揮できる筋力の限界が心理的限界です。つまり、私たちが「最大筋力」だと思っているものは、実は「心理的なブレーキがかかった状態での筋力発揮」にすぎないのです。
※この仕組みを実感させるのが、いわゆる「火事場の馬鹿力」です。普段は大脳がブレーキ(抑制)をかけていますが、緊急時や強い気合いによってそのブレーキが一時的に外れる(脱制止)と、普段以上の力が出ることがあります。気合いの声を出すと力が出やすくなるのも、これに関係するといわれます。
生理的限界と心理的限界の差には個人差があり、パワーリフティングやウエイトリフティングなどの競技者では、心理的限界が生理的限界の85〜90%にも達するといわれます。この「ブレーキの外しやすさ」の差が、発揮できる筋力の差を生むのです。それでは、生理的限界と心理的限界の差を埋めるには、どんなトレーニングを行えばよいのでしょうか。
心理的限界を生理的限界に近づける方法をお話しする前に、まず筋出力を高める3大要素を理解しておきましょう。それは次の3つです。
まず①②について解説します。筋肉は、筋線維という細くて長い細胞からできており、これが興奮すると筋収縮が起こります。筋線維に収縮の命令を出しているのが神経細胞(運動ニューロン)です。1個の神経細胞と、それが支配する数本〜数千本の筋線維をまとめて「運動単位」と呼び、これが筋活動の機能的な単位になります。
収縮に関わる運動単位(神経細胞と筋線維)の数が多いほど、大きな筋出力が生まれます。これが①運動単位の動員です。そして、脳から筋へ送られる「収縮せよ」という電気的な命令をインパルス、その単位時間あたりの回数を発火頻度といいます。②発火頻度が高いほど、筋出力は大きくなります。実際、運動単位は発揮する力が小さいものから大きいものへと段階的に動員され、発火頻度が上がることで張力が増していくことが、運動生理学で知られています。
では、運動単位の動員と発火頻度の増大を促し、筋出力を高めるには、どんなトレーニングがよいのでしょうか。察しの良い方はお分かりかもしれませんが、高強度のウエイトトレーニングです。高強度のトレーニングでは大脳が強く興奮するため、発火頻度の増大と運動単位の動員が起こり、結果的に大きな筋出力が出せるようになります。もちろん1〜2回行っただけでは変わりませんが、ある程度続けることで、生理的限界と心理的限界の差が少しずつ埋まっていきます。逆に低強度のトレーニングでは大脳の興奮が小さいため、筋出力を大きく高めるのは難しいといえます。
また、高強度トレーニングでも、補助者(スポッター)に頼ることが癖になっている人は、効果が出にくいことがあります。「つぶれても補助してもらえるから安心」という気持ちが、無意識のうちに脳の興奮(限界を超えようとする働き)を抑えてしまうからです。
※ 高強度トレーニングを長時間・過度に行うと、オーバーワークやケガを招く恐れがあります。十分な休養とあわせて、無理のない範囲で行いましょう。安全のため、高重量時はラックやセーフティーバーを活用してください。
それでは、高重量トレーニングだけ行っていればよいのでしょうか。答えは「ノー」です。確かに高重量トレーニングで生理的限界と心理的限界の差は縮まりますが、それだけでは不十分です。もともと生理的限界(潜在的な筋力の上限)が低い人は、その上限自体を引き上げるトレーニングも必要だからです。
なぜなら、筋出力は基本的に筋肉の横断面積に比例するからです(これが3つ目の要素「筋肉のサイズ」です。筋力と筋断面積が比例することは、古くはフィックの法則以来、研究で示されてきました)。つまり、もともと筋肉量が少ない人が、いくら神経系のトレーニングだけを行っても、十分な結果は得られません。生理的限界の高い人と低い人とでは、同じ「70%」でも発揮できる力に大きな差が出るのです。
以上をまとめると、筋出力を高めるには、
を、それぞれ行う必要がある、ということになります。しかし、これらは本質的に異なるトレーニングなので、同時に行うのは困難です。そのため、計画的にプログラムへ変化をつけながら実施する必要があります。この考えを発展させたのが、冒頭で触れたピリオダイゼーション理論なのです。期分け(準備期・鍛錬期・試合期など)をして、時期ごとに筋肥大重視・筋力重視とテーマを変えることで、伸び悩みを防ぎ、着実に筋力を高めていけます。
「生理的限界」は筋力の潜在的な上限、「心理的限界」は普段発揮できる限界で、その間には脳のブレーキ(抑制)があります。差を埋めるには、運動単位の動員と発火頻度を高める高強度トレーニングが有効。一方、筋出力は筋断面積に比例するため、筋肥大を促す中等度トレーニングも必要です。これらを計画的に組み合わせるのがピリオダイゼーション。過度な高強度は禁物で、休養も大切です。
※本記事は一般的な運動情報です。高強度トレーニングを行う際は、十分な準備運動と休養をとり、持病のある方や初心者の方は、医師や専門のトレーナーにご相談ください。