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「運動をすればするほど健康になる」と思われがちですが、運動の強度や量が過剰になりすぎると、かえって健康を害してしまう恐れがあります。風邪にかかりにくい、抵抗力のある身体を作るには、「適度な運動」がカギになります。
運動は、広い意味では一種の【ストレス】です。ストレスが適度であれば、身体はそれに適応しようとしますが、過度であれば対応しきれず、やがて身体そのものに大きな負担をかけてしまいます。
『ランニングを始めたら体調がだんだん良くなり、あれほど悩んでいた肥満が解消され、腰の痛みも治まった』——こうした話はよく耳にします。一方で、『以前より腰の痛みが増した』『今まで痛くなかった膝や股関節まで痛むようになった』と訴える人も少なくありません。このように、運動は適度に行えば良薬になりますが、過剰になれば毒にもなり得るのです。
運動を行うことで、以前よりコンディションが悪くなってしまうのは、【オーバーワーク】(オーバートレーニング/オーバーユース)の兆候の一つです。
人間の身体の各器官には、ストレスに対応する機能があります。外的ストレスが適度であれば、各器官の能力を高められますが、ストレスが過剰だと対応しきれず、やがて様々な障害をきたします。これを俗にオーバーワークといいます。運動で見られる障害の多くはこのオーバーワークによるもので、例えばテニス肘、野球肘、野球肩、ジャンパー膝、ランナー膝などがあります。
ストレスの量は、一般に運動強度・時間・頻度で決まりますが、たとえ運動時間が短くても、強度が高ければ、短時間でオーバーワークになることがあります。オーバーワークの主な兆候には、次のようなものがあります。
このほか、上気道感染症、いわゆる『かぜ症候群』にかかりやすくなった、一度かかると治りが悪くなった、というのもオーバーワークの兆候の一つです。これらのサインが複数当てはまる場合は、運動量を見直すことが大切です。
体力は『身体的要素』と『精神的要素』に大別でき、さらに身体的要素は『行動体力』と『防衛体力』に分けられます。
行動体力とは、筋力・筋持久力・瞬発力・調整力・柔軟性など、行動を起こすための体力です。一般に、これらは高ければ高いほど望ましいとされます。能力に余裕があるほど、何事も余裕をもって行動できるからです。
一方、防衛体力とは、一般に抵抗力・免疫力とも呼ばれ、体内外からのストレスに耐える能力を指します。具体的には、温度調整、精神的ストレスへの抵抗力、免疫などです。風邪にかかりにくい身体とは、この防衛体力(とくに免疫力)が高い身体といえます。
一般に、適度な運動を長く続けると防衛体力が向上し、ストレスに強い身体が養われるといわれます。しかし、運動の強度・量・頻度が過剰になると、かえって防衛体力が低下し、上気道感染症(かぜ症候群)にかかりやすくなり、一度かかると治りにくくなるのです。つまり、抵抗力をつけたいなら、運動は「適度」であることが何より重要なのです。
抗原となる物質(細菌やウイルスなど)が体内に侵入すると、人体はこれに対応して、リンパ球(白血球の一種)などの働きで抗体をつくろうとします。これにより、再び同じ抗原が侵入したとき、抗体が抗原と結合して無害化します。この生体の防衛メカニズムを免疫(めんえき)といいます。
免疫は大きく、非特異的免疫(自然免疫)と特異的免疫(獲得免疫)の2種類に分けられます。非特異的免疫は、不特定の細菌やウイルスに対する抵抗力で、感染したら即座に対応する免疫です。世の中には風邪をひきやすい人とひきにくい人がいますが、この差は主に非特異的免疫の個人差によるといわれます。一方、特異的免疫は、特定の細菌やウイルスに対して、感染してから抵抗力を発揮する免疫です。例えば、一度はしか(麻疹)にかかると二度とかかりにくくなるのは、この特異的免疫の働きによるものです。
これらの免疫の能力は、運動の強度や量によっても変化します。運動をすると、一過性に免疫の能力は高まります。その高まった状態は運動後もしばらく続きますが、さらに時間が経つと、免疫能力は一時的に低下し、その後おおむね20〜24時間ほどで元に戻ります。このように、24時間以内に免疫が回復するような適度な運動を定期的に続けていれば、免疫能力はしだいに高まっていきます。
しかし、運動の強度や量が極端に多いと、免疫能力そのものが低下したり、回復までの時間が長くかかったりするようになります。とくに、マラソンのような激しい運動の後は、免疫機能が数時間〜数日にわたって低下する期間が生じることが知られており、これを「オープンウィンドウ(開いた窓)」と呼びます。この無防備な期間に細菌やウイルスにさらされると、感染しやすくなってしまうのです。外出後にすぐ手を洗い、うがいもこまめにしているのに、すぐ風邪をひく・治りが遅いという人は、一度『オーバーワークでは?』『運動強度や量が多すぎるのでは?』と疑ってみる必要があります。
運動と免疫の関係を示すものとして、「Jカーブモデル」が有名です。これは、適度な運動をする人は風邪(上気道感染症)にかかるリスクが最も低く、運動不足の人も、逆に激しい運動をしすぎる人も、リスクが高まる、という関係をJ字型のカーブで表したものです(Nieman, 1994)。
では、免疫を高める運動量・強度・頻度はどのくらいが適当なのでしょうか。免疫の研究はまだ発展途上で、万人に当てはまる具体的な数値を示すことはできません。ただし、一般的な目安として、「ニコニコペース」で会話ができる程度(最大心拍数の50〜60%程度)の有酸素運動を、1回30分前後・週数回、無理なく継続するのが、免疫を高めるうえでおすすめとされています(1時間未満の運動でNK細胞が増えるという研究もあります)。いずれにせよ、大切なのは『過ぎたるは及ばざるがごとし』。何事もほどほどが一番です。あわせて、十分な睡眠・バランスの良い食事・手洗いうがいといった基本も、抵抗力のある身体づくりには欠かせません。
風邪にかかりにくい抵抗力のある身体には、免疫力=防衛体力が大切です。適度な運動は免疫を高めますが、やりすぎ(オーバートレーニング)は逆に免疫を下げ、激しい運動後は「オープンウィンドウ」で感染しやすくなります。運動と風邪リスクはJカーブの関係。「会話ができるニコニコペース」で30分前後を無理なく継続し、睡眠・食事・手洗いうがいもあわせて、ほどほどを心がけましょう。
※本記事は一般的な健康情報です。風邪が長引く・繰り返す、体調不良が続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。持病のある方は、運動を始める前に医師にご相談ください。