ウエイトトレーニングで効果的に筋力アップ|漸進性の原則を解説

ただ漠然とウエイトトレーニングを行っていても、運動の効果はなかなか得られません。効果が出ない理由としては、『運動のやり方が間違っている』『食事管理をおろそかにしている』『運動の絶対量(強度・量・頻度)が不足している』など、実に様々なものが考えられます。

ウエイトトレーニングの効果が目に見えて得られるかどうかは、実施する本人が『いかに正しい知識を身につけ、いかに正しく実施するか』にかかっていると言っても過言ではありません。効果を最大限に得るためには、トレーニングの原理・原則の理解を深めることが大切です。なかでも『漸進性の原則』(ぜんしんせいのげんそく)は、特に重要です。

漸進性の原則とは、トレーニングの内容を『今の自分の体力に合わせ、簡単なものから難しいものへ、

また、運動強度・量・頻度などを、低いものから高いものへと徐々にレベルを上げていかなければならない』という原則です。「そんなの当たり前じゃないか」と思う方も多いでしょう。しかし、トレーニングの結果が出ない方の多くは、この当たり前のことができていないことが、往々にしてあるのです。

ウエイトトレーニングの基本中の基本、漸進性の原則とは

ウエイトトレーニングを始めたばかりの頃は適切だった運動負荷も、ある程度続けていくと、徐々に「適切な負荷」ではなくなっていきます。

例えば、『始めた頃はひどかった筋肉痛が、最近はめっきり起こらなくなった』『筋力の発達が止まった』『筋肉量が増えなくなった』という声をよく聞きます。その原因の多くは、今使っているウエイトや量、メソッド(方法)が、その人の現在の筋肉を発達させるうえで、もはや適切ではなくなっていることにあります。(なお、筋肉痛の有無はトレーニング効果の正確な指標ではありませんが、「体が刺激に慣れてきたサイン」の一つにはなり得ます。)

基本的に、ウエイトトレーニングを行えば筋力は増し、筋肉は肥大します。しかし、その発達具合に応じてウエイトの重量や量などを段階的に増やしていかなければ、筋肉の発達はやがて停滞します。このように、『今の自分の体力に応じて負荷を決め、その後の筋肉や筋力の発達に合わせて、少しずつ負荷を強めていく』という原則が『漸進性の原則』です。日常以上の負荷をかける「過負荷(オーバーロード)の原理」と組み合わせ、「漸進性過負荷の原則」と呼ばれることもあります。

ここで一つ大切な注意点があります。負荷を上げるときは、強度・量・頻度のうち、一度に複数を増やすのではなく、1つずつ増やすのが安全で効果的です。そして、自分の体力レベルを見極めずに、いきなり運動強度や量を増やしてしまうと、効果が得られないばかりか、時に大きな事故につながることもあります。

漸進性の原則を無視したことによって起こり得る悲劇

漸進性の原則を無視することの怖さを示す、こんな話があります。かつて海外で、極度の肥満(身長164cmに対し体重150kg超)のため自力で動くことも難しかった高齢の女性が、入院して食事療法に取り組み、半年ほどで体重を40kgほど減らすことに成功しました。検査値も改善し、自力で動けるまでに回復しました。

あるとき、その方が「近くのパレードを見に行きたい」と希望し、担当医は付き添い付きで許可。往復200mほどを自分の足で歩いてパレードを楽しみました。しかし、その晩、心室細動(心臓のけいれん)を起こして亡くなってしまったというのです。

私たちにとっては何でもない往復200mが、長く寝たきりに近い状態だったこの方にとっては、運動量・強度ともに高すぎたのです(自分の足で歩くのは実に久しぶりだったといいます)。検査結果が良好でも、急に大きな負荷をかけることの危険性を示す、痛ましい例です。

ここから学べる重要な教訓があります。メディカルチェック(医学的検査)は、運動を始めるための「必要条件」にすぎず、それさえ受ければ運動による事故をすべて予見できる、というわけではありません。メディカルチェックで「異常なし」と言われたら、次にその人の今の体力レベルを正しく知り、そのうえで漸進性の原則にしたがって、少しずつ運動量を増やしていく必要があります。

そして何より、体力には大きな個人差があり、ある人にとっては何でもない負荷でも、別の人には過剰な負荷になり得るということです。もし先の女性が、最初は数十mの歩行から始め、問題なくできたら少しずつ距離を伸ばす——という段階を踏んでいれば、悲劇を防げた可能性は高いでしょう。健康のための運動が事故につながっては、元も子もありません。とくに高齢の方や、持病のある方、長く運動していなかった方は、必ず段階的に進めることが大切です。

昔、運動をやり込んでいた人ほど要注意!──昔は昔、今は今

中高年に限らず、トレーニングを長期間やらなければ、ほぼ例外なく体力は低下していきます。昔どれだけやっていたかは関係ありません。やめてしまえば、体力は確実に失われていきます。このように、トレーニングをやめると体力が徐々に失われていくことを『可逆性(かぎゃくせい)』といい、ほとんどの体力要素は可逆性を持っています。

学生の頃どれだけバリバリ運動していたとしても、その後、何年・何十年も運動していなければ、体力は確実に低下しています。こうした方が、何かをきっかけに一念発起して急に運動を始めるのは、とても危険です。ここでいう「急激な運動」とは、単に運動強度の強弱だけでなく、生活の急激な変化も含みます。

『昔とった杵柄(きねづか)』という言葉がありますが、昔、本格的に運動をしていた人ほど、つい無理をしがちです。自分では最大限にレベルを下げているつもりでも、今の体には過剰なストレスになっていることがあります。『若い頃はこれだけできた』と無理をすれば、先の女性のような事故を招きかねません。

『昔は昔、今は今』。過去の自分ではなく、今の自分の体力をしっかり見つめて行動しないと、取り返しのつかないことになりかねません。運動を再開する際は、現在の体力を基準に、低い負荷から少しずつ。これが、安全に、そして効果的に筋力アップしていくための鉄則です。

まとめ

効果的に筋力アップするには「漸進性の原則」が欠かせません。体力の向上に合わせて、負荷(強度・量・頻度)を一度に1つずつ、段階的に上げていくことが大切です。効果が停滞したら、負荷の見直しのサイン。一方で、体力には個人差があり、メディカルチェックは必要条件にすぎません。とくに高齢の方や運動再開組は、過去ではなく「今の自分」を基準に、低い負荷から少しずつ始めましょう。

参考文献・出典

※本記事は一般的な運動情報です。高齢の方、持病のある方、長く運動していなかった方は、運動を始める前に必ず医師にご相談のうえ、無理のない範囲で段階的に進めてください。

編集長