普段、私たちが何気なく行っているストレッチの中には、危険を伴うものや、効果が疑わしいものがあります。それらを知らずに続けることで、いつの間にか体を痛めてしまったり、かえってスポーツのパフォーマンスが低下してしまったりすることが、しばしば起こります。今回は「危険が伴うストレッチ」の第二弾として、『大腿部編』をお届けします。
いわゆる『膝関節(しつかんせつ)』は、主に膝を曲げる(屈曲)・伸ばす(伸展)という動作を行います。もちろん、その動力源は骨格筋(以下、筋肉)です。
膝関節の屈曲には主にハムストリングスや腓腹筋が、伸展には主に大腿四頭筋が関与します。このほか、膝を曲げた状態でのわずかな内旋・外旋にも関わりますが、動きは小さいので今回は割愛します。
膝関節のまわりには、主に6種類の靭帯があります。
膝関節の構造
膝の内側には『内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)』、外側には『外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)』と『腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)』、膝の内部には『前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)』と『後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)』、そして膝蓋骨(お皿)の直下に『膝蓋靭帯(しつがいじんたい)』があります。これらが協働することで、膝関節の安定性が保たれています。
これらの靭帯は、ケガなどの外傷時はもちろん、日常生活での体の使い方(例えば不自然な座り方など)によっても、機能不全に陥ることがあります。今回はその中でも、とりわけトラブルの多い『内側側副靭帯』を中心に話を進めます。
膝関節の両側には2本の側副靭帯があり、内側が内側側副靭帯、外側が外側側副靭帯です。膝を伸ばした状態では、これらの靭帯がピンと張るため、膝が横に折れ曲がらず安定します。この安定があるからこそ、立つ・歩く・片足立ちといった基本動作を無意識に行えるのです。
しかし、普段の何気ない座り方や、誤ったストレッチ(もちろん意識的に傷めようとしているわけではないでしょうが)を繰り返すことで、靭帯の働きに機能不全が生じ、関節の正常な固定力が保てなくなって、様々な問題を引き起こすことがあります。
これから紹介する2つの座り方は、膝の靭帯だけでなく、股関節や足関節にも悪影響を与えかねないといわれる座り方です。続けると体の歪みの原因にもなるので、心当たりのある方は控えることをおすすめします。
横座り
女の子座り(トンビ座り)
▪️ 横座り
正座を崩したような座り方です。問題は、横座りをすると、体重がかかる逆側の膝の内側側副靭帯が過剰に引き伸ばされ、大きな負担がかかってしまう点です。さらに注意したいのが、内側側副靭帯は、外側側副靭帯と違って『半月板(はんげつばん)』とつながっていること。そのため、内側側副靭帯が過剰に引っ張られると、その力が内側の半月板にも及び、半月板(内側)を傷めてしまう恐れがあります。また、このとき股関節が内側にねじれる角度が大きくなるため、股関節の安定性にも影響します。
▪️ 女の子座り(トンビ座り/ぺたんこ座り)
文字どおり女性に多く見られる座り方で、靭帯が太く強い男性には、この座り方ができる人はあまりいません。若い女性では、7割ほどの方ができてしまうともいわれます。女の子座りでは、先の横座りと同じような現象が、左右両側で同時に起こります。
幼い頃からこれらの座り方を続けると、内側側副靭帯がゆるい状態に育ってしまい、大人になったときに膝が不安定になって、『O脚』『X脚』といった見た目の問題が生じることがあります。さらに見た目だけでなく、膝蓋軟骨軟化症・膝蓋大腿不安定症・膝蓋骨脱臼・変形性膝関節症などの障害に発展することもあります。膝だけでなく股関節にも影響が及び、変形性股関節症につながることもあります(これらを発症するかどうかは、骨密度や筋力の状態などによっても変わります)。実際、変形性膝関節症は女性に多く、進行するとO脚・X脚になることが整形外科でも知られています。
続いて、危険性の高いストレッチを2つ紹介します。大腿部を伸ばす目的で、しばしば『ハードラーズ・ストレッチ』や『ニーストレッチ』が行われますが、これらは陸上のハードル選手など専門性の高い競技者が行うならまだしも、一般の方が行うことはあまりおすすめできません(理由は後述します)。
ハードラーズ・ストレッチ
ニー・ストレッチ
▪️ ハードラーズ・ストレッチ
主に大腿部後面(ハムストリングス)を伸ばす目的のストレッチです。名前の由来は、ハードルを飛び越える動作によく似た姿勢で行うことから。問題は、伸ばしている反対側の膝の内側側副靭帯を過剰に伸ばしかねない姿勢になっている点です。内側側副靭帯が伸ばされすぎると、つながっている内側半月板を傷める可能性があることは、先に述べたとおりです。ただし、実際にハードル競技を行っている方にとっては、競技動作に近い動きなので、『スペシフィック(専門的)エクササイズ』として用いる分には良いストレッチといえます。しかし、ハードル競技をしていない一般の方は、控えておくことをおすすめします。
▪️ ニーストレッチ
大腿部の前面を伸ばす目的のストレッチで、誰もが一度はやったことがあるかもしれません。これは先のハードラーズ・ストレッチとは逆に、ストレッチをしている側の内側側副靭帯と半月板を傷める可能性があるストレッチです。膝を深く曲げてひねるような姿勢が、膝に負担をかけます。
これまで紹介してきた座り方やストレッチは、普段、何気なく行っていることが多いと思います。しかし、これらを繰り返すことで、やがて靭帯や半月板だけでなく、体全体に様々な問題(歪みなどを含む)を引き起こし、突発的なケガもしやすくなってしまいます。今からでも遅くありません。心当たりのある座り方・ストレッチは、見直してみましょう。なお、太もも前面を安全に伸ばす方法は別記事(大腿部編Ⅱ)でも紹介していますので、あわせてご覧ください。すでに膝に痛みや違和感がある方は、自己判断せず整形外科を受診してください。
膝の内側側副靭帯は内側半月板とつながっているため、これを過剰に引き伸ばす動きは半月板損傷のリスクになります。横座りや女の子座り(トンビ座り)はその代表で、続けるとO脚・X脚や変形性膝関節症などにつながることも。ハードラーズ・ストレッチやニーストレッチも一般の方にはおすすめできません。膝に痛みや違和感があれば、自己判断せず整形外科を受診しましょう。
※本記事は一般的な運動情報です。膝や股関節に痛み・違和感のある方、靭帯や半月板の損傷が疑われる方は、自己判断せず整形外科などの医療機関を受診してください。