慢性的な腰痛を改善しようと、腹筋を鍛えたり腰のストレッチを行ったりする方は多いと思います。しかし、その人の姿勢(骨盤の傾きや背骨の状態)によっては、こうした運動でかえって腰痛が悪化してしまうことがあります。例えば、フラットバックと呼ばれる「腰の反りがあまりない」タイプの方が腹筋を鍛えたり腰を丸めるストレッチをすると、かえって腰痛を起こしやすくなることが知られています。
「すべての腰痛は腰椎のカーブが強くなりすぎて起こる」という古典的な考え方の影響もあってか、いまだに腰を反らせる運動を一律に禁忌としている運動指導者や医療従事者も少なくありません。
確かに、腹筋を鍛えたり腰を丸めたりする運動は、腰椎前弯症(腰の反りが強すぎる方)には有効かもしれません。しかし、それがすべての人に当てはまるわけではありません。とりわけ、フラットバック姿勢(腰の自然な反りが失われている方)の場合、これらの方法はあまり有効ではなく、むしろ逆効果になることもあるのです。腰痛対策は「腰を丸める」か「腰を反らす」か、自分のタイプに合った方を選ぶことが重要です。
上の図は、フラットバックの方にみられる腰椎の状態です。骨盤の後傾が強いことなどから腰椎の前側が押しつぶされ、椎間板には後方へ飛び出そうとする力が加わります。
これにより、椎間板の中心にあるゲル状の組織『髄核(ずいかく)』が、椎骨の中心から徐々に背中側へと移動し、その後ろを通る神経(脊髄神経)を圧迫するようになります。歯磨きチューブを片側から押すと中身が反対側へ押し出される、というイメージに近い現象です。こうした椎間板の偏りからくる腰痛では、神経が圧迫されることで、痛みが腰だけでなく、お尻・太もも・ふくらはぎへと広がっていきます。このような広がる痛みを放散痛(ほうさんつう)といいます。
この放散痛を和らげるには、腰椎を伸展させる(腰を反らせる)運動を行い、後方へずれた椎間板(髄核)を前へ押し戻すことが有効です。すると、神経への圧迫が減り、足の方まで広がっていた痛みやしびれが、だんだん体の中心(腰)へと戻り、和らいでいきます。この現象を『セントライゼーション(中心化)』といいます。セントライゼーションを促すエクササイズはいくつかありますが、今日もっとも広く知られているのが、ニュージーランドの理学療法士マッケンジーが考案した“マッケンジー体操(マッケンジー法)”です。
マッケンジー体操は、平背タイプ(フラットバック)の方や、放散痛が出ている・過去に出たことがある方にとても有効とされ、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの腰痛症状の緩和、ぎっくり腰の予防、フラットバックなどの不良姿勢の改善が期待できるエクササイズです。
このように腰を反らすことで、椎間板のセントライゼーション(中心化)を促します。この姿勢が問題なくできるようになったら、両肘を完全に伸ばして(写真3)行うか、腕立て伏せの要領で両肘の曲げ伸ばしを繰り返します。マッケンジー体操は、2〜3時間おきに行うのが目安です。
運動中に気をつけるのは、背中や腰の筋肉をできるだけ使わず、力を抜いて行うことです。腕の力で上体を支え、腰は脱力させるのがポイントです。もし、寝た姿勢で行えない状況なら、立った状態で腰に手を当て、腰を反らす運動で代用するのも有効です(前かがみの作業が続いたときのリセットにもなります)。
この運動を続けることで、フラットバックによる腰痛や放散痛などの神経症状の改善が期待できます。ただし、運動後に痛みやしびれが悪化する場合は、自分のタイプに合っていない可能性があるので、直ちに中止してください。腰の状態は人によって異なり、合わない体操を続けると悪化することもあります。自己判断で続けず、整形外科や理学療法士に相談しながら、自分に合った方法を見つけることが大切です。
腰痛対策は「腰を丸める」か「腰を反らす」か、自分の姿勢タイプに合った方を選ぶことが大切です。フラットバック(腰の反りが少ない)タイプで、髄核が後方にずれて放散痛が出る方には、腰を反らすマッケンジー体操が有効で、ずれた髄核を戻す「セントライゼーション」を促します。ただし反り腰の方・反ると痛む方・妊娠中の方は禁忌。運動後に痛みやしびれが悪化したら中止し、専門家の指導のもとで行いましょう。
※本記事は一般的な医療情報であり、診断・治療に代わるものではありません。腰の痛みやしびれが強い・長引く場合や、運動で症状が悪化する場合は、自己判断せず整形外科を受診し、専門家の指導のもとで行ってください。