ダイエット(減量)を成功させるカギは、ずばり「自分に合った運動強度で、無理なく続けること」にあります。有酸素運動(ウォーキング、水泳など)を行うときの運動強度は、安全性が高く、しかも効果的であるのが理想です。その理想に近いとされるのが、AT付近での運動です。
ATとは Anaerobic Threshold の略で、日本語では無酸素性作業閾値(むさんそせいさぎょういきち)といいます。
これは、運動強度を上げていったときに、筋肉中に乳酸(疲労に関わる物質)が急に増え始めたり、二酸化炭素の排出量が急に高まったりするポイントのことです。
つまりATは、有酸素運動と無酸素運動(100m走、ウエイトトレーニングなど)の分岐点といえます。ゆったりとした有酸素運動では、酸素の需要に対して供給が十分に追いついているため、乳酸はあまりたまりません。しかし、さらに運動強度を上げていくと、酸素の供給が需要に追いつかなくなり、やがて筋肉中に乳酸がたまっていきます。乳酸がたまりすぎると、運動を続けるのが難しくなります。
そして減量の観点で重要なのは、このような高い運動強度(無酸素運動レベル)は、必ずしも脂肪を効率よく使うのに向いた強度とはいえない、という点です。だからこそ、AT付近の「ややきつい」と感じる手前の強度が、減量には扱いやすいのです。
次に、AT付近の運動強度が脂肪を使うのに向いている理由をお話しします。運動のエネルギー源は主に「糖質」と「脂質」で、その使われる割合は運動強度によって変わります。AT以下の(息が弾みすぎない)有酸素運動では、糖質と脂肪がおよそ半分ずつエネルギー源として使われるとされます。一方、ATを超えて強度が高くなると、酸素が足りなくなって脂肪を使いにくくなり、糖質中心のエネルギー供給に傾きます。すると乳酸の蓄積も進みます。
また、脂肪は「ホルモン感受性リパーゼ」という脂肪分解酵素によって分解されてはじめて使われます。乳酸が多くたまるような高すぎる強度よりも、AT以下の穏やかな強度のほうが、脂肪をエネルギーとして使いやすい環境といえます(ただし、乳酸が脂肪分解を直接妨げるかどうかなど、細かいメカニズムには諸説あります)。
ここで一つ、よくある誤解について触れておきます。「脂肪は運動開始から20分たたないと燃え始めない」と言われることがありますが、これは正確ではありません。
最新の研究では、運動開始から5〜10分程度の早い段階でも、脂肪はすでに使われていることが分かっています。運動を続けるにつれて糖質の利用が減り、脂肪の利用割合が徐々に高まっていく、というのが実際のところです。ですから、たとえ短い運動でも脂肪は燃えています。(図1は、運動時間と糖質・脂肪の使われ方のイメージです)
そして減量で本当に大切なのは、「脂肪の燃焼”割合”」よりも、運動全体での「総消費カロリー」です。割合だけを気にして強度を下げすぎると、消費カロリー自体が少なくなってしまいます。逆に、中〜高強度の運動は脂肪の利用”割合”は低くても、総消費カロリーが多いため、結果的に多くの脂肪燃焼につながることもあります。要は、「続けられる強度で、トータルの消費カロリーと活動量を増やす」ことが、減量成功のカギなのです。もちろん、運動だけでなく食事の管理(摂取カロリーとのバランス)も欠かせません。
本来、AT値を正確に求めるには、運動しながら血液を採取して乳酸が急増するポイントを調べたり、呼気ガスを採取して二酸化炭素の排出量が急増するポイントを探したりする必要があります。当然、一般の人がこれらを測定する機会はほとんどないでしょう。
そこで役立つのが、おおよそのAT以下の目標心拍数を求められる簡単な計算式、『カルボーネン法』です(以前このかわら版でもご紹介しました)。目標とする運動強度(%)の部分に、一般の方なら50、スポーツ愛好家なら60、競技者なら70〜80といった数字を入れて計算します。
目標心拍数 =(最大心拍数 - 安静時心拍数)× 目標強度(%)+ 安静時心拍数
※最大心拍数 = 220 - 年齢
例えば、安静時心拍数が60拍の40歳のスポーツ愛好家の場合を計算してみましょう。最大心拍数は 220-40=180拍。これを式に代入すると、目標心拍数は(180-60)×0.6+60=132拍となります。つまりこの方は、運動中の心拍数が1分間に約132拍になるように運動すれば、乳酸を過剰にためることなく、効果的に有酸素運動を行えるということです。心拍数はスマートウォッチなどでも手軽に確認できます。
AT値を意識すれば、安全かつ効率よく脂肪を使う運動ができます。しかし、『効率』という部分だけにとらわれてはいけません。なぜなら、運動でもっとも重要なのは『継続性』だからです。
どんなに合理的な運動計画を立てても、続かなければ意味がありません。減量は、短期間で一気にではなく、長く続けてこそ結果が出ます。「正しさ」や「効率」を追い求めるあまり、つらくて続かない運動になっては本末転倒です。それよりも、「気持ちよく続けられる強度」「生活に組み込める時間帯」「楽しいと思える種目」を選ぶことのほうが、ずっと大切です。AT値はあくまで目安の一つとして活用しつつ、何より「無理なく続けること」を最優先にしましょう。それこそが、減量成功の一番のカギです。
減量成功のカギは「続けられる運動強度」と「総消費カロリー」、そして食事管理です。AT(無酸素性作業閾値)以下の有酸素運動は乳酸がたまりにくく、脂肪を使いやすい強度。目安の心拍数はカルボーネン法((220-年齢-安静時)×強度+安静時)で求められます。「脂肪は20分から」は誤解で、運動開始数分から脂肪は燃えています。効率にこだわりすぎず、無理なく長く続けることが何より大切です。
※本記事は一般的な健康・運動情報です。持病のある方、心臓・血圧に不安のある方は、運動を始める前に医師にご相談ください。