お酒の主成分である『アルコール』は、1gあたり約7kcal(キロカロリー)のエネルギーを持っています。アルコールはエネルギー源であると同時に、身体の様々な組織や器官に影響を及ぼす「薬物」でもあります。
運動施設に行くと、必ずといっていいほど『酒気を帯びている方のご利用はできません』という注意書きがあります。これは、お酒を飲んだうえで運動することが、とても危険な行為だからこそ、わざわざ注意喚起されているのです。
しかし実際には、『多少飲んでいるくらいなら平気だろう』とお酒を飲んだ状態で運動施設に来る方も少なくありません。また、運動前に飲むとパフォーマンスが上がる、と思い込んでいる方もいるようです。
おそらくこれは、アルコールが中枢神経系に作用し、行動や感情の抑制(ブレーキ)を外して大胆な振る舞いをさせたり、自信を高めたり、頭が冴えるような感覚を与えたりするからかもしれません。しかし、それは「気のせい(感覚の変化)」であって、実際には運動能力はむしろ低下します。
それでは具体的に、飲酒後に運動を行うと、身体にはどんな影響があるのでしょうか。アルコールを摂取すると、消化管からすみやかに吸収され、飲酒30分後には80〜90%が体内に取り込まれるといわれます。しかし、エネルギーになる速度は遅く、体重60kgの人で1時間に6〜12g程度(40〜80kcal分)にしかなりません。吸収速度に個人差はあるものの、いずれにせよアルコールは「非効率なエネルギー源」だといえます。
その上、アルコールを代謝する際には酸素や水を多く必要とし、心臓への負担も高まります。さらに、アルコールには末梢の血管を拡張させて血圧を下げる作用があり、これに後述の脱水が加わると、心臓にとって大きな負担となります。これらのことから、運動前の飲酒は『飲んだ量のわりにエネルギー効率が低く、最大酸素摂取量や筋持久力などの運動能力を低下させ、その上、心臓や肺などに大きな負担をかける行為』といえます。実際、ACSM(アメリカスポーツ医学会)も、運動前の飲酒は競技力の向上に役立たないばかりか、むしろ妨げになる、という趣旨の見解を示しています。
アルコールが身体に及ぼす影響を、もう少し具体的に見ていきましょう。
① 利尿作用による脱水
よく知られているように、アルコールには利尿作用があります。お酒を飲むとトイレが近くなるのはこのためです。利尿作用が働くと体内の水分が失われやすくなり、さらにアルコールの分解にも多くの水が使われます。この状態でランニング・サッカー・テニスなど、とくに屋外のスポーツで汗をかくと、水分の損失はいっそう大きくなります。その結果、脱水症状を引き起こすリスクが高まり、重い場合には意識障害やショック状態に陥る危険もあります。
② 感覚の麻痺
アルコールには、痛みなどの感覚を麻痺させる作用があります。とくに寒い環境で運動するときは注意が必要です。凍傷の初期の兆候である『激しい痛み』『焼けるような感覚』を感じにくくなり、気づかないうちに皮膚組織に重いダメージを受けてしまう可能性があるからです。また、感覚やバランス感覚の鈍りは、ねんざ・転倒・衝突といったケガのリスクも高めます。
アルコールを長期にわたって摂取し続けると、肝臓がダメージを受け、アルコール性の肝機能障害(脂肪肝・肝炎・肝硬変など)を起こすことがあります。肝臓は、アルコールの分解だけでなく、糖質・脂質の代謝や、血液を固める/溶かす成分(凝固・線溶系)の調整など、多くの役割を担っています。そのため、肝機能が低下すると、全身に様々な影響が及びます。
その一例として、血液を溶かす働きに関わる『プラスミン』という酵素があります。プラスミンは、増えすぎると線維素(フィブリン)の膜を溶かし、出血を起こす方向に働く酵素です。
肝臓は、この線溶系(血栓を溶かすしくみ)のバランスを保つのにも関わっています。一般に、適度な運動は血栓を溶けやすくし、動脈硬化の予防に役立つと考えられていますが、肝機能が低下している方では、このバランスが乱れて出血傾向(血が止まりにくい・出血しやすい状態)に傾くおそれがあります。そのため、肝臓に障害のある方が運動を行う際は、医師に相談のうえ、細心の注意を払う必要があります。
二日酔い(宿酔)の状態は、肝臓に大きな障害があるわけではないにしても、アルコールの分解で肝臓に負担がかかり、脱水も伴っているため、身体にダメージを与えていることは間違いありません。脱水・血圧の変動・心臓への負担・感覚の麻痺・運動能力の低下——これらが重なる飲酒後・二日酔いでの運動は、健康な人にとっても危険です。いずれにしても、お酒を飲んだあとの運動は絶対に避けるべきといえるでしょう。お酒を楽しむときは運動とは時間を分け、運動後に飲む場合も、水分をしっかりとりながら適量を守りましょう。
お酒を飲んだあとの運動は危険です。アルコールの利尿作用で脱水が進み、末梢血管の拡張による血圧低下と相まって心臓に大きな負担がかかります。さらに最大酸素摂取量や筋持久力などの運動能力は低下し(ACSMも飲酒は競技力向上に役立たないと明言)、感覚の麻痺でケガのリスクも増加。肝臓への負担もあります。二日酔いでの運動も危険なので、飲酒と運動は必ず時間を分けましょう。
※本記事は一般的な健康情報です。肝臓・心臓などに持病のある方、出血傾向のある方は、運動や飲酒について必ず医師にご相談ください。飲酒後・二日酔いでの運動は避けてください。