心筋障害や狭心症(きょうしんしょう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)などが特にあるわけでもないのに、突然心臓が止まってしまうことが、時折あります。こうした、心臓が止まった直接の原因がその場でははっきり特定できない状態を、広く『急性心不全』と表現することがあります。近年、医療の発展とともに、こうした突然の心停止につながる要因が少しずつ明らかになってきました。その一つが「喫煙」です。
タバコの煙には、ニコチン・タール・一酸化炭素をはじめ、4000種類以上の化学物質が含まれ、そのうち有害とわかっているものだけで200種類以上にのぼるといわれています。これらが、心臓や血管に大きな負担をかけます。
喫煙が心臓に悪影響を及ぼすしくみは、主に次のように説明されています。タバコに含まれるニコチンには強力な血管収縮作用があり、血圧を上昇させ、心拍数を増やします。これにより心臓の仕事量(酸素の必要量)が増えます。一方で、タバコに含まれる一酸化炭素は、酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビンと結びつきやすく、血液が酸素を十分に運べなくなります。つまり、心臓は「より多くの酸素を必要とするのに、供給は減る」という、需要と供給がちぐはぐな状態に陥りやすくなるのです。
さらに、喫煙は血管の内側の細胞を傷つけ、血液を固まりやすくして血栓(血の塊)をつくりやすくし、動脈硬化を進めます。これらが重なることで、心臓に血液を送る冠動脈が詰まり、狭心症や心筋梗塞、さらには致死性の不整脈による突然死のリスクが高まります。国立循環器病研究センターなどによると、喫煙者が心筋梗塞を発症するリスクは、吸わない人に比べて男性で約4倍、女性で約3倍とされ、喫煙本数が多いほどリスクは高くなります。とくに運動などで心臓に負荷がかかる場面では、こうした喫煙の影響が心臓に重くのしかかることがあります。
運動と組み合わせて考えると、注意が必要です。運動そのものは健康に良いものですが、喫煙によって冠動脈の血流が悪くなっている状態で激しい運動を行うと、心臓が酸素不足に陥りやすく、危険な状況を招くことがあります。喫煙習慣のある方が運動を始める際は、とくに無理をしないことが大切です。
突然死(思いがけず短時間のうちに心臓が止まること)は、中年以降の男性に起こることが多いとされています。加齢とともに動脈硬化が進み、心臓や血管の予備力が低下していくため、若い頃に比べて、喫煙などの負担が心臓に与える影響が大きくなりやすいのです。もともと高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病がある方が喫煙していると、リスクはさらに重なります。
「もう長年吸っているから、今さらやめても手遅れだろう」と思う方もいるかもしれません。しかし、それは誤解です。禁煙の効果は、始めたその日から現れ始めます。禁煙すると、ニコチンによる血圧上昇や血管収縮といった負担がなくなり、血栓もできにくくなっていきます。研究では、禁煙して1〜2年ほどで、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)のリスクが大きく低下することが報告されています。肺がんのリスク低下には10年以上かかるとされるのに比べ、心臓に関しては禁煙の効果が比較的早く現れるのが特徴です。
なお、1日1本程度のわずかな喫煙でもリスクは上がるとされ、本数を減らす「節煙」では十分な効果は期待できません。心臓を守るには、減らすのではなく「やめる」ことが大切です。一人での禁煙が難しい場合は、医療機関の禁煙外来(条件を満たせば保険診療も可能)を利用するのも有効な選択肢です。
もし、運動中や日常生活で、強い胸の痛みや圧迫感、息切れ、冷や汗、めまいなどを感じた場合は、心臓の病気のサインかもしれません。ためらわず医療機関を受診し、症状が激しい場合は救急要請(119番)をしてください。
タバコのニコチンは血管を収縮させ血圧・心拍を上げ、一酸化炭素は血液の酸素運搬を妨げます。さらに血栓や動脈硬化を進めるため、喫煙者は心筋梗塞のリスクが3〜4倍に高まり、突然死の危険も増します。とくに中高年や、心臓に負荷のかかる運動時は注意が必要です。禁煙の効果は始めた日から現れ、1〜2年で心臓病リスクが大きく下がります。胸の痛み・息切れなどがあれば早めに受診を。
※本記事は一般的な医療情報であり、診断・治療に代わるものではありません。胸の痛みや圧迫感、息切れなどの症状がある方、心臓に持病のある方は、自己判断せず医療機関を受診してください。症状が激しい場合はただちに救急要請を。禁煙については医療機関の禁煙外来にご相談いただけます。