これまで、『手を真横に挙げる動作』『結帯動作(帯を結ぶように手を背中に回す動作)』『結髪動作(髪を結ぶように手を頭の後ろへ持っていく動作)』などで肩先に強い痛みが出る症状を、まとめて『四十肩・五十肩』と呼んできました。
しかし今日では、原因がはっきりした疾患はそれぞれ『インピンジメント症候群』『石灰沈着性腱炎』『腱板断裂』『上腕二頭筋長頭腱断裂』などと呼ばれ、検査をしても明らかな原因が特定できないものを『四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)』と呼びます。
つまり「四十肩・五十肩」は、似た症状を示す他の肩の病気をすべて除外したうえで診断される、いわば中年以降に起こる原因不明の肩の痛みと運動制限の総称なのです。以下に、肩関節によく見られる症状を紹介します。なお、肩の痛みは自己判断が難しく、まれに肩以外の病気が隠れていることもあるため、強い痛みや長引く症状がある場合は整形外科を受診してください。
▪️ 四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)
四十肩・五十肩は、医学的には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、英語では frozen shoulder(凍結肩)、あるいは癒着性関節包炎とも呼ばれます。その名のとおり、原因がはっきり特定できないのが特徴で、病態も完全には解明されていません。諸説ありますが、加齢を基盤として、肩関節の関節包(関節を包む組織)や腱、筋肉が変性し、炎症が広がって痛みと可動域の制限を生じる、と考えられています。筋肉の疲労や血行不良で起こる「肩こり」とは別の疾患です。
発症は40〜60代に多く、利き手の反対側に生じることが比較的多いとされます。多くは数か月〜1年ほどの経過で自然に軽快しますが、適切に対処しないと肩の動く範囲が狭いまま固まってしまう(拘縮)こともあるため、注意が必要です。
▪️ インピンジメント症候群
肩関節は、上腕骨と肩甲骨で構成されています。上腕骨の先端の「骨頭」と呼ばれる丸い部分が、肩甲骨の「関節窩(かんせつか)」と呼ばれる浅いくぼみにはまり込んで、肩関節をかたちづくっています。ただし、肩の関節窩は、同じ球関節である股関節と比べて非常に浅いため、大きく自由に動かせる反面、不安定で、脱臼をはじめ様々なトラブルが起こりやすい場所として知られています。
これらの筋肉群が弱くなると肩関節の安定性が保てなくなり、上腕骨の骨頭が上方向にずれてしまいます。その結果、棘上筋の腱が上腕骨と肩甲骨の「肩峰(けんぽう)」の間に挟まれ、こすれて炎症を起こします。これが『インピンジメント症候群』です。インピンジメント(impingement)は日本語で『衝突』『激突』と訳され、腕を挙げる動作(とくにバンザイの途中)で痛みが出るのが特徴です。バレーボールや野球など、肩を挙げる動作の多いスポーツでも起こりやすいとされます。
▪️ 石灰沈着性腱炎(石灰沈着性腱板炎)
石灰沈着性腱炎は、40〜50歳代の女性に多くみられます。肩の腱板内にリン酸カルシウムの結晶(石灰)が沈着し、急性の強い炎症が起こることで、肩に激しい痛みが生じます。沈着した石灰は、当初は濃厚なミルク状ですが、時間が経つにつれて石膏(せっこう)のように硬く変化していきます。石灰が溜まって膨らんでくると、可動域が制限されるだけでなく痛みが増し、肩を動かせなくなることもあります。
症状が五十肩(肩関節周囲炎)とよく似ているため見分けが難しいのですが、レントゲン(X線)を撮ると、沈着した石灰が白く写るため、診断がつきます。急性期の激痛に対しては、腱板に針を刺して石灰を吸引する方法や、消炎鎮痛剤、注射などの保存療法が行われます。多くは保存療法で軽快します。
▪️ 回旋筋腱板断裂(腱板断裂)
回旋筋腱板は『ローテーターカフ』ともいい、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の総称です。腱板の断裂は、転倒して肩を強打するなど明らかな外傷で起こることもありますが、多くは加齢による腱の変性を背景に、前述の『インピンジメント症候群』がきっかけとなって進行します。インピンジメントが悪化すると、やがて棘上筋の腱に亀裂が生じ、最終的に腱板が断裂してしまうのです。腕を挙げるときに痛む、力が入りにくい、挙げた腕を保持できないなどが特徴で、診断にはMRIや超音波検査が有用です。
▪️ 上腕二頭筋長頭腱炎・長頭腱断裂
上腕二頭筋長頭腱炎の主な原因は、加齢による腱の変性・筋力低下、運動前のストレッチ不足、肩の使いすぎ(酷使)などです。好発年齢は30〜50歳代で、肩をよく使う方に多い傾向があります。上腕二頭筋は「力こぶ」をつくる筋肉で、その長頭の腱は炎症を起こしやすい組織として知られています。
間違ったウエイトトレーニングが引き金になることもあります。とくに『インクライン・ダンベルカール』『バーベルベンチプレス』などの種目で痛めやすく、インクラインカールでベンチの角度を低くしすぎたり、ベンチプレスで肩甲骨の寄せ(内転)が甘かったりすると、長頭腱に過度な負荷がかかります。これが進行して腱が切れてしまうことを『上腕二頭筋長頭腱断裂』といい、断裂すると力こぶが盛り上がったように変形することがあります。症状は、腕を挙げるときの痛みと、長頭腱が通る「結節間溝(けっせつかんこう)」部分の圧痛が特徴ですが、肩そのものの痛みと勘違いされることも多いようです。
四十肩・五十肩、インピンジメント症候群、石灰沈着性腱炎のいずれであっても、肩の痛みの「急性期」には炎症を伴うので、基本的にはRICE処置を行います。(炎症の五大徴候は、機能障害・熱感・腫脹(しゅちょう)・発赤(ほっせき)・疼痛(とうつう)です)
RICE処置とは、Rest(安静)・Icing(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)の頭文字をとったものです。急性期はこの処置で炎症を抑えることが基本になります。痛みが強い場合は、我慢せず早めに整形外科を受診し、消炎鎮痛剤や注射、リハビリなど適切な治療を受けましょう。
急性期が落ち着いたら、徐々に「コッドマン体操(アイロン体操)」と呼ばれる、腕の重みを利用して肩をゆらす運動などで、無理のない範囲でリハビリを行います(具体的な方法は別ページで紹介します)。
この時期に最も気をつけたいのは、『むやみに動かさない』ことです。とくに、下の写真のように肩をグリグリと無理に回す動作は禁物です。
先に述べたとおり、肩関節周囲炎は棘上筋の腱が肩峰と上腕骨頭の間で挟まれて発症することが多いため、写真のように肩を無理に動かす動作は、いわば傷口に塩を塗るようなものです。良かれと思って強く動かすと、かえって炎症を悪化させてしまいます。痛みが引かない、夜も眠れないほど痛む、腕が挙がらない・力が入らないといった場合は、自己判断で対処せず、必ず整形外科で診てもらいましょう。
「四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)」は、他の肩の病気を除外した、原因がはっきりしない肩の痛み・運動制限の総称です。原因が特定できるものには、インピンジメント症候群、石灰沈着性腱炎、腱板断裂、上腕二頭筋長頭腱炎などがあります。急性期の痛みにはRICE処置が基本で、むやみに肩を回すのは禁物。症状は見分けが難しく、悪化することもあるため、強い痛みや長引く症状があれば早めに整形外科を受診しましょう。
※本記事は一般的な医療情報であり、診断・治療に代わるものではありません。肩の痛みが強い・長引く、腕が挙がらない・力が入らないなどの場合は、整形外科を受診してください。