腰に負担の掛からない腹筋運動の正しいやり方を解説

一昔前の腹筋運動というと、股関節・膝関節をまっすぐ伸ばしたまま、足首を誰かに押さえてもらって上半身を起こす、というものでした。学校の体育でおなじみのスタイルですね。

腰を痛める昔ながらの腹筋運動 ファーストポジション

(写真1)ファーストポジション

腰を痛める昔ながらの腹筋運動 セカンドポジション

(写真2)セカンドポジション

しかし、このやり方は腹筋を鍛えるというより股関節の運動になってしまっているうえに、腰椎に非常に大きな負担がかかります。そのことが知られて以降、特別な理由がない限り行ってはいけないエクササイズの一つとされるようになりました。

次に主流になったのが、股関節・膝関節を曲げたまま上体を起こす『シットアップ』というエクササイズです。

あらかじめ股関節・膝関節を曲げておくことで、股関節を曲げる筋肉(腸腰筋・大腿直筋)の働きをある程度抑えられるため、まっすぐ脚を伸ばすやり方より腰椎への負担を減らして腹筋運動ができる、と考えられたからです。

しかし実際には、『シットアップ』を行っても腰椎には負担がかかります。

▼シットアップ

シットアップ ファーストポジション

(写真1)ファーストポジション

シットアップ セカンドポジション

(写真2)セカンドポジション

腰痛を予防する目的でシットアップをしているにもかかわらず、かえって腰を痛めてしまう方が後を絶ちません。そこで次に登場したのが、上体を「丸める」ように起こす『クランチ(クランチャー/カールアップ)』という腹筋運動です。確かにクランチは、シットアップに比べて腰椎に負担のかかりにくい種目であることは間違いありません。

▼クランチ

クランチ ファーストポジション

(写真1)ファーストポジション

クランチ セカンドポジション

(写真2)セカンドポジション

ところが、近年さらに研究が進み、シットアップとクランチを比較すると、クランチの方が安全性は若干高いものの、この種目もやはり腰椎に負担がかかることが分かってきました。実際、カナダ・ウォータールー大学のスチュアート・マックギル教授の研究では、シットアップを繰り返すと椎間板に大きなストレスがかかる危険性が報告され、これを受けてアメリカ陸軍が腹筋運動を体力測定から除外したほどです。それでは、いったいどのようなエクササイズが、腰椎に負担をかけない腹筋運動なのでしょうか?

椎骨の構造

そもそも「腰椎に負担がかかりすぎる」とは、どういうことを指すのでしょうか。脊柱(背骨)は、これまでにも述べてきたとおり、椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が積み重なった柱状の構造をしています。

脊柱の構造(椎骨と椎間板)

脊柱の構造

椎骨の椎体と椎体の間には「椎間板(ついかんばん)」という軟骨があり、これがあることで背骨は滑らかに動けます。脊柱に縦方向の圧縮力が加わると、椎体と椎間板にその力がかかります。

このとき、脊柱の生理的なS字カーブ(湾曲)がきちんと保たれている方は問題ありませんが、その湾曲が失われている方(腰椎の前湾が消失している方など)は、縦の圧縮力がダイレクトに伝わるため、椎間板が潰れやすく、椎間板ヘルニアも起こしやすくなります。

また、骨粗しょう症で骨が脆くなっている高齢の方では、縦方向の圧迫力によって椎間板より先に椎体に負担がかかり、椎骨が潰れて骨折してしまうことがあります。これを脊椎圧迫骨折といいます。高齢の方で背骨が折れ曲がったような強い猫背になっている場合、過去に圧迫骨折を起こしている可能性があります(脊椎圧迫骨折は、胸椎と腰椎の移行部の椎体に生じやすいといわれます)。骨粗しょう症がある方は、腹筋運動の前に主治医に相談すると安心です。

シットアップは、股関節・膝関節を曲げていても、椎間板や椎体に強い圧縮力が加わるおそれがあります。

椎間板にかかる圧縮力の図(自然な前湾と過屈曲の比較)

椎間板に掛かる圧縮力

クランチは腸腰筋・大腿直筋の関与が少ないため、椎体・椎間板への圧縮力が小さいように思えますが、実はシットアップとそれほど変わりません。では、なぜクランチでも腰椎に圧縮力がかかるのでしょうか?

その理由は、上半身を起こすときに腰椎を屈曲させすぎている(丸めすぎている)ため、運動中に腰椎へかかる圧縮力が、椎間板・椎体の前側に偏ってしまうからです(上の図の下側を参照)。

これらのことから、椎体や椎間板に偏った負担をかけずに腹筋を働かせるには、腰椎の自然な前湾(S字カーブ)を保ったまま腹筋運動を行う必要があります(上の図の上側を参照)。そのためには、どのような腹筋運動を行えばよいのでしょうか。

腰椎に負担を掛けないようにする腹筋運動の行い方

やり方はとてもシンプルです。まず、膝を立てて仰向けに寝ます。次に、自分の両手のひらを腰椎の反り(腰と床のすき間)の部分に差し込みます(あるいは、折りたたんだタオルを腰の下に差し込みます)。そして、腹筋の力を使って上体を起こします。このとき、上げる角度は肩甲骨が床から少し離れるくらいにとどめておきます。

腰を痛めにくい腹筋運動 ファーストポジション

(写真1)ファーストポジション

腰を痛めにくい腹筋運動 セカンドポジション

(写真2)セカンドポジション

このように行うことで、腰の下に入れた手(またはタオル)が腰椎の自然な前湾を保つガイドになり、腹筋運動のときに腰椎にかかる圧縮力を軽く抑えることができます。また、両手を腰に差し込んだまま行うため、腹筋運動でありがちな「首(頚椎)を痛める」ことも防げます(手を頭の後ろで組んで引っ張ると首を痛めやすいためです)。

ポイントを整理すると、①腰の下に手かタオルを入れて自然なカーブを保つ、②肩甲骨が床から離れる程度の小さな動きにとどめる、③反動を使わずゆっくり、④息を吐きながらお腹を縮める、の4つです。回数をこなすことより、腹筋にしっかり効かせる丁寧な動作を優先しましょう。皆さんもぜひ、この方法で腹筋運動を行ってみてください。なお、現在腰に痛みがある方や腰の持病がある方は、無理に行わず、整形外科や専門家に相談してから取り組んでください。

まとめ

昔ながらの脚を伸ばした腹筋やシットアップは腸腰筋が働いて腰椎に大きな負担がかかります。クランチは比較的安全ですが、腰を丸めすぎると椎間板の前側に圧縮力が偏ります。腰を痛めない腹筋のコツは、腰の下に手やタオルを入れて自然な前湾を保ち、肩甲骨が床から少し離れる程度の小さな動きで、反動を使わずゆっくり行うこと。首を引っ張らないので頚椎も守れます。腰に痛みや持病がある方は専門家に相談してから行いましょう。

参考文献・出典

※本記事は一般的な健康・運動情報です。腰痛や骨粗しょう症などの持病がある方、痛みがある方は、運動を始める前に整形外科や専門家にご相談ください。

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